無条件に愛されたい、現実は甘くないのは分かってるけど、それでも愛されたい願望の物語。
Ver1.00
クリア時間 1時間 (ED1)
+48分(ED2)
+21分(ED3,Afterstory)
オイケアとヴァセンの2つに分かれた国の
オイケアの城にて
兵士として働くために強引に城に忍び込み
囚われた主人公だったが、
オイケア国王である黎牙の計らいにより
側近として働くことになった恋愛乙女ADV。
選択肢によって本作はルート分岐し
赤い方を選ぶと黎牙寄り、青い方を選ぶと蓮都寄りで
3回程選択肢が出た後に、多く選んだ方の個別ルートに
分岐する。黎牙ルートに入れば、それ以降選択肢なしでED1。
蓮都ルートに入ると何度かまた選択肢が出て
ここでまたどちら寄りにするかによって
ED2、ED3にそれぞれ分岐する。
主人公の蘭、最初のエピソードから分かる通り
かなりのお調子者である。
城に忍び込もうとしてお尻がハマって動けない
あたりからもコメディ色が強いのだが
王様に会えば自分の境遇に同情して雇ってくれると思って動くも
牢屋に入れられて、正規のルートじゃないならこうなるよね普通。
多分死ぬんだろうなとネガティブな想像を展開する。
一般化すると、自分の都合の良い現実を思い浮かべるも
現実はそうならないことに気づき、思い通りにならない現実に対して
凹むという性格である。
雇ってもらいたくていうセリフも、基本的にお金に困っている、
自分の不幸な境遇を吐露するだけで
あとは何でもするといえば何とかなると思っている。
実に自分本位なキャラで思慮が浅く、
彼女を通しての地の文は、事象に対する彼女の感想が大半であり
恋愛対象にあたる黎牙たちの心情もあまり興味がなく、
それよりも自分の感情を地の文で流している。
例えば黎牙に怒られたときも、彼に悪いことをしたと思うよりも
彼に想い人がいるらしいということに凹み悩む。
恋愛についてもそうで、相手が自分が好きなのかなと思った後で
身分の差があるし、自分なんて釣り合わないよね。というところで
自己完結を繰り返す印象が強い。
本作の恋愛というのは相手をしっかり見ないで
相手の肩書で夢を見ているようなものでもある。
設定上、主人公は王の側近として働くことになる。
忙しいらしい文は度々出てくるのだが、主人公の働きぶりは
あまり具体的に描写されない。
本作で描写されるエピソードは
いっせーのでの手遊び、缶蹴りなどの庶民の遊びを
主人公が黎牙たちに教えて一緒にやるものや
お土産を一緒に食べる、遊園地に遊びに行くなど
現代の遊びの印象が強い。
上流階級の王族らしさを感じさせるエピソードは序盤の舞踏会と
後半の騒動くらいで、非日常として描かれている。
舞踏会で、主人公は自分の場違いさを感じて
ただみじめなだけだったから
それ以降、個別ルートに入るまでは
主人公が楽しめるような展開にしようという意図が
感じられる。しかし、この主人公ができることは
庶民の遊びくらいしかなかったので
現代色が強い日常になった。
本作は、庶民の主人公が王族の世界に適合する話ではなく
その逆の、王族が庶民の主人公に合わせてくれる話である。
主人公の設定、展開から言えることは
とにかく愛されたいのだ。
自分のことばかりでたいして何もできないし
難しいことはよく分からないけど
愛されたい。自分は何もしないでも
無条件に高貴な人に愛を与えてほしい、
自分の日常に合わせてほしい、
受動的に愛を求めている、本作の様々な点から
そんな願望が感じられる。
主人公の実態は、主を支える側近などではなく、
主から愛を与えられるお姫様である。
だけども同時にそんな都合の良いことがあるわけがない、とも
思っている。だから高望みしないで高貴な人間が愛してくれるはずがないと、
自分はそんな現実を分かっている姿勢を見せるのだけども心の奥底で
そういうことが起こらないかなーと待ち望んでいる。
だから、主人公は直接、お姫様にはならずに
形式的には側近という立場になるのだ。
自信も取り柄も全くなくても、ある日シンデレラのように
突然幸せを得ることを
ないとは思っていても望んでいる人は
この主人公に共感できると思う。
ちなみに主人公の実態がお姫様と特に思うのがエンド2で
一番のハッピーエンドなのだが、
主人公以外のキャラが頑張ることで物事が解決し
主人公はただそれを見ているだけなのである。
そのキャラが頑張った理由に主人公のことがあってもいいはずなのに
主人公のことは一切触れられない。
主人公と関係のないところで物語が進んでいった印象が強く
周りは動くけど自分は動かないで見ているのは
王を支える側近というには程遠く、正にお姫様に思うのだ。
自分本位な性格も誰かを支えるのには向かないし
それを裏付けるように仕事内容が描写されないのも
根拠になっている。
ここで攻略キャラについて記述すると
黎牙は主人公相手に「彼氏いないのも当然か」と
ちょっかいをかけるようなセリフも
多く、ボケツッコミでじゃれあうような関係性で
庶民の遊びではしゃいだり
ちょっと子どもっぽい面もある。
王だけあって、主人公を完全救済するくらいに
財力もある。主人公が「求める者」なら
彼は「与える者」である。冒頭で主人公が言ってた
まさに「同情してくれる王様」である。
ある人物の評した「警戒心を知らず
来るものを拒まない」というのは正にその通りであり
それだけ器の広い人物でもある。
そして配下の蓮都は、黎牙と対照的な人物である。
基本的には物腰は丁寧で大人っぽいが
ある程度、物語が進むと
野心家の一面も出てくるようになる
危険な魅力の持ち主である。
彼は性質的には「奪う者」だ。
バッドエンド寄りではあるがエンド3は
そんな危険さが最も表出するエンドである。
歪んだ形ではあるがこれも愛する愛されることには変わりない。
エンド1、エンド2のそれぞれの攻略エンドから
結婚相手としては黎牙、
恋愛相手としては蓮都、という二者のスタンスの違いが
出ているように思う。
側近という形式をとりつつも
王族と庶民の遊びをし、現代的な遊園地に遊びにいって
愛されたいけど、自分なんて場違いだよなと思い悩む一作。
シンデレラなんて現実的でないと思いながらも
内心でシンデレラを期待して、ただ愛されたい人向け。
シリアスとギャグをフルボイスでしっかり楽しめるADVでした。
3EDクリアさせて頂きましたので、レビューさせて頂きます。
冒頭からヒロインさんが黎牙さんの治める国に無理矢理忍び込み
それを見て寛大に秘書として迎え入れる黎牙さんとのやり取りが
とても楽しく、そこから一気にたそゆばさんの世界観とキャラに惹きこまれました。
黎牙さんの側近として現れる蓮都さんや、ヒロインさんの親友で喫茶店で働く來々さん
そのお店の常連さんである怜士さんも、それぞれの個性があって終始飽きさせない展開でした。
シリアスばかりでなく、随所に挟まれるギャグ要素も会話のテンポと相まって凄く楽しめましたし
OP曲や挿入歌、ムービーもクオリティが高く
たそゆばさんの世界観をより一層引き立てていたと思います。
女性向けADVですが、ストーリーや世界設定・キャラ設定が細かく作り込まれていることもあり
中世ファンタジーADVとして読み進めながら攻略対象とのやり取りや意外な展開を楽しめるので
純粋にその手の世界観のゲームが好きで、一部注意要素に抵抗がなければ
男性にも楽しめる作品だと思いました。
以下、ネタバレ含みます。
黎牙さん:オイケア国王でありながら、好奇心が強く少年のように無邪気な性格で
他お二人の攻略対象が比較的堅めの印象な中、良い意味でのムードメーカー的存在だったと思います。
庶民のお遊びに率先して馴染んでいくところもキラキラしていて凄く爽快感がありました。
終盤で策略に嵌り殺されかけるも、手負いのまま果敢に立ち向かう姿に王の貫禄を感じましたねー。
攻略EDもしっかりおめでたで締めくくられ、一番纏まった良い終わり方だったと思います。
蓮都さん:当初は物腰穏やかな性格から「んー何か色々含みありそうだなー」と思いながら
会話イベントを進めさせて頂いてました。
ですが終盤までブレることなく、最後はしっかりヴァセン国王としてヒロインさんをお持ち帰り…
う~ん最後までブレない御方だったなーという印象でした。
お酒の下り~その後の告白シーンも平静を保ちつつ盛り上げていってくれたなーと感じました。
怜士さん:個人的には來々さんといい感じになってほしいと思いました。
見た目的には一番王族っぽい印象でしたねー。
蓮都さんよりは少し気さくな感じでした。
來々さん:出番はそこそこなのに、EDによっては結構メンタルやられちゃって
色々不憫だなーと…(苦笑)
声も見た目も凄く可愛かったです!
担当ボイスコ様は、歌唱面でもご活躍されているというのもあるのでしょうか
声量と声の透明さが頭一つ飛び抜けておられた印象を受けました。
ヤンデレEDは、黎牙さん亡き後ヒロインさんがどっちつかず状態で壊れてしまい
蓮都さんが傍に置いてそれを弄ぶという中々に衝撃的なEDだと思いました。
双方が堕ちていく、闇の結末という印象でした。
製作当初より、密かに期待させて頂いていましたが
キャラのやり取りの楽しさの裏で蠢く国家間の陰謀や駆け引き等を
フルボイスにより存分に楽しませて頂きました。
素敵な作品をありがとうございました!
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