サラッと読みやすく、でも内容は深い
とても読みやすい文章で、あっという間に読めました。
文章を邪魔しないイラストがアクセントになって
場面場面の雰囲気や情景を思い浮かべながら読むことができました。
主人公が記憶喪失というところから物語は始まり、そこで一気に読み手を引き込み
途中は昔物語を読んでるような、ですが最後の最後で
なぜ彼はその選択肢を選んだのか…なぜこの状態になったのか…など
考えさせられました。
クリックすると続きの文章が表示されるようになっていましたが
その表示される文章が短いのでクリックする回数が多くなるのが地味に気になりました。
流されて二人を裏切った後悔を語り続ける物語。
クリア時間 10分
記憶喪失になった”僕”があばら家で出会った
お兄さんの昔話を聞く掌編ノベル。
ノベルゲームとして、
無駄がなくて洗練された文章で
短い文章ながら、ひきこまれる魅力がある。
白黒の画面も、この物語の背景を考えると
非常に合っている。
印象に残ったのは二カ所あって一つは
ポチャンと川に何かが飛び込む音がした場面である。
あの場面は意図的に印象に残りやすく演出されている。
BGMも環境音も止まったところで効果音が鳴るからだ。
読み手が正に文章の通りの体験ができるようになっていて
この物語が小説でなく体験装置としての"ゲーム"の強みを
活かしていた部分だと思った。
もう一つは「雨降るといいですね」のセリフで
あの状況でこのどこか淡々とした言葉を返すというのも
味わい深い。
話の展開自体は読みやすいのだけども
そう思わせたところで、最後の衝撃的な展開に驚かされる。
この展開、初見だとある人物と同様に
きょとんとするが、彼の境遇を考えてみると
自然と起こってもおかしくないことに思えてくる。
こう思わせるほどにシナリオの構成力、キャラの描写力が巧み。
短いながらもしっとりとした気分で
しっかりした文章が読みたい向けの一作といえる。
(※※以下はネタバレを大幅に含む)
彼に対する考察をすると、役割に対して固執しすぎるタイプで
そうなったのは、自我の芽生えないような環境で
育ってきたからだろう。そして、運の悪いことに
前任者が自己犠牲によってある問題を解決してしまった。
似たような問題に出くわした時に、自己犠牲で
問題を解決しなければならない、それが自分の役割だと思ってしまった、
その強迫性はたとえ自然と問題が解決されようとも
役割を全うしなければならない、という絶対的な度合いまで
いってしまったのだと思う。
ただ、これは特殊なケースではなく、
日本人なら状況によっては彼と同じようにする人は
決して少なくはないのだろうと、
日本の歴史を思い出すとそう思えるあたりが怖いところである。
彼自身は 裏切りの罰だと解釈したが
改めてこの物語をもう一度読んでみると
直接的には彼女の願いは描写されていない。
あの時に雨が降ってきた意味を
彼がそう捉えたのだと思う。
個人的には、二人を裏切った罰というよりは、
やってしまった行為に対する後悔で
自ら永遠と苦しみ続けているような印象もある。
「あの時雨が降りはじめたのは
彼女が生きてほしかったという願いのはずなのに
あの時、宮司さんは
命を奪われないことにほっとしていたのに
自分は役割に抗えなかった」
そういう裏切りの後悔を自分に語り続ける、そんな物語にも思えた。
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