メーアに舞う傘 第一話

人間に生まれ変わったクラゲ少女・ミツキと交わる異種間日常ファンタジー

　■あらすじ

過去のトラウマから人を信じられなくなり、絶望の毎日に身を置く青年・四ノ原悠汽。
彼は明け方の大海原の前で、入水自殺を図ろうとしていた。
……60年という余生を無駄に過ごすくらいなら、死んでしまったほうが幸福だと思って。

酒と薬の副作用で意識が霞みつつも、岸から一歩ずつ、死の方向へ近づいて行く悠汽。
そしてあと一歩で悲願が達成されるところで―――突然背後から自身を窘める「少女の声」が聞こえてきた。

「お止めください、貴方様。どうしてそんなことを……」

悠汽はその声を聞いて、自分を殺めようとする足を止める。

「……いや、違う。これは幻聴だ。自身が作り出した妄想なんだ」

悠汽は頭を振って、その事実を否定しよとうした。こんな大嵐の朝方に散歩へ来る少女がいるはずかない。
……それに、自分を助けようとする人間など、この世界にはいないのだから。

「貴方は生きようとすれば、いくらでも生きられる。なのにどうしてこんなことを……？」

だが、幻聴と決めつけ、意識から排除しようとしていた少女の声は、まるで事実を誇示するように科白を続ける。
慈しみすら感じる、温かみに満ちた声色で……。

「……答えてください！」

雷鳴とリンクしたように、茫洋たる海へ轟く少女の声。
悠汽その叫声を聞いて、ようやく自認した。
幻と思い込んでいた少女の存在が、真のものであることを……。

「君は……」

悠汽は畏れを感じながらも、ゆっくりと後ろを振り返る。
……そこには、顔も名前も知らぬ、窈窕なる少女の姿が……。

「やっと、振り向いてくれたのですね」

彼女は嫣然と笑った。運命とも呼べる、二人の出会いを印象付けるように―――。




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