人生を変えてしまうかもしれない作品
今ほど、物事をしっかり調べている人、考えている人と、そうでない人の間で、社会の動きに関しての認識や危機感に差がある時代はないでしょう。そうした中でこの作品が登場したことは、意義深いのではないでしょうか。特に、日常の会話ではタブーとされがちな憲法などの題材を堂々と扱っている点が素晴らしいと思います。
本作は、日本国憲法第9条変更後(注1)の日本を想定し、ミリタリズムへの傾倒がもたらす暴力の連鎖を描いた物語となっています。フィクションではありますが、史実に基づく描写が多数登場し、リアリティを与えてくれます。
シリアスな展開、武器・暴力に関する描写のため、プレイヤーを選ぶ作品だと思います。個人的にはR15指定が妥当だと考えます。また、安易に文章を読み流すだけでは、重要な点を読み取れない可能性があります。(武器の名前等についてはともかく、)わからない言葉について調べたり、個々のシーンについて自分なりの解釈を考えることが、作品を楽しむうえで必要かと思います。冒頭、衝撃的なシーンで始まり、最後まで救いのない展開となっていますので、その点覚悟してプレイすることをお勧めします。
・憲法変更の設定について
作品における憲法変更の内容が後半まで読み取れませんでした。違和感を抱いたのは、ユキと茂木との会話シーン。「個人の意見は尊重されるべきだ」「それは公民の授業でも習った日本国憲法にも書いてある」とのことですが、現行の自民党改憲案の内容とはそぐわないので、どういうことだろう?と思いました(注2)。作者様は「全体主義」という言葉もご存知のようなので、本作では憲法全体ではなく、第9条のみが変更されたという設定なのだと、後になってから理解できました(注3)。
・戦闘シーンの描写について
戦闘シーンの描写は大変細かく、本作の中心とも言えるのですが、私はその具体的内容には関心がありませんので、その点については楽しめませんでした。また、実際に行われている行為やその意味合いのわりに、その場にいる人物のノリが軽いのはとても残念に思いました。ですので、展開のみ認識し、読み流しました。
・どこまでが史実か
どこまでが史実であり、どこからがフィクションなのか。当然といえば当然ですが、作中では明示されませんので、プレイヤーがしっかり理解する姿勢が求められます。ともあれ、社会情勢をよく調べたうえで製作されている点は秀逸だと思います。
・誤字・脱字
誤字・脱字が多数見受けられます。例:中世的→中性的/空見ていて→空を見ていて/防衛戦→防衛線/やってるやるよ→やってやるよ/駅の名前が背景画像の一部で間違い/(モットーを)適応する→適用する/エンディング 作品名に誤字/Soundefect→Sound effect
・安保条約の破棄に関して
アメリカ側からの事実上の破棄ということでしょうか?経緯は書かれていませんので、初め読んだときに首をかしげてしまいました。
・主張の公平性
政治的な内容が多数登場します。ミリタリズムを扱っている以上、やや全体主義色が強いキャラが多くなるのは仕方ないのかもしれないですが、個々の登場人物が各人の主張を持っており、作品全体として、特定の主張を行わないように配慮されているようで、好感が持てました。
・続編?
エンディングで描かれなかった存命の人物のその後については後続の作品で描かれることになるのでしょうか。今後の展開に期待します。
本作は、プレイヤーにとっては、いかに社会と関わっていくかを考える材料になると思います。作中の人物は、幸せかどうか?そうでないとすれば、どのように行動や考え方を変えるべきか?それはすなわち、プレイヤー自身の人生観を見直すこと、人生を考えていくことにつながるでしょう。
注1:改正という言葉は、法令の不備を修正するという意味もあります。ここでは主観の混入を避けるため、変更という言葉を使用しました。
注2:自民党改憲案では「個人としての尊重」ではなく、「人としての尊重」に変わっています。
注3:9条が変わっただけでこうはならないとは思いますが、そこはフィクションですから…。
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